〜冒険者編〜第21話

結果からいうと心配は杞憂だった。ランが起こした騒ぎに釣られて出てきたゴブリンで全部だったらしく巣をくまなく探したが、ゴブリンの姿はなくあったのは冒険者から奪い取った装備品が保管されていた部屋や食糧庫と思われるなんの肉かも分からない塊が置かれた部屋、あとはゴブリンが寝起きしていたと思われる部屋ぐらいだった。私は元の持ち主が分かりそうな物を三人で分担して持ち出した後、巣に火を放った。
全ての作業が終わったときには日は完全に落ちていた。そんな中私たち三人は増えた荷物を背中に背負いのんびりと森の中を歩いていた。

「はぁ〜楽な仕事かと思ったら思いのほか時間食っちゃったわね」
「う〜僕はフェルちゃんのお説教のせいでフラフラだよ〜」
「十分に手加減したわよ。ランのおかげで助かったのは事実だしね。でも言っておかないとまた突っ走っちゃうでしょ。だいたい……」
「……フェルそれ以上言っちゃダメだよ」
「おっとそうね」

ロロに窘められてそのあとも湧いて出そうになった言葉を飲み込んだ。これ以上はランの自尊心を傷つけてしまう。塩梅はとても難しいが人の機微に鋭いロロはちゃんとそこら辺を理解して言ってくれるためとてもありがたい。ちょっとわざとらしいが話を変えておこう。

「そうそう今日は街に戻れても夕飯はないだろうから簡単なものならリクエストを受け付けるわよ」
「ホント! フェルちゃんのご飯久々だから嬉しいよ! 何にしようかな〜……ロロちゃんはなにがいいと思う?」
「……もうランったら……でもフェルの料理は久しぶり……私も嬉しい」

二人揃って相好を崩すものだからこちらもついつい嬉しくなってしまう。

「久しぶりって旅の間いっつも食べてたじゃない」
「ちゃんとした料理ってことだよ。旅の間は限られた食材でどうしようかうんうん悩んでたじゃない」
「それはそうでしょう。何も考えずに作ってたらすぐに食材を使い切ってしまうもの」
「……だからフェルの全力の料理食べたい」
「まぁ作るのはもちろんいいけど……何度も言うけど手間かかるのは作れないからね」
「わかってるよ〜。何がいいかな〜?」
「……私……シフォンケーキ食べたい」
「シフォンケーキってロロそれデザートじゃない。しかも結構時間掛かるし……メインディッシュを決めてちょうだい。シフォンケーキはまた時間があるときに作ってあげるから」
「……楽しみにしてるからね」

ニコッと微笑むロロに頬が赤くなってしまった。同性の私でも照れてしまうぐらいの破壊力を有している。今は私たちくらいにしか笑みを見せないがこの子の良さが広まって悪い虫が付かないか心配だ。

「決まらないならこっちで勝手に決めてしまうわよ。街も見えてきたからね」

ウラーナは人の出入りが多くギルドがある関係上夜も門番の検閲を受ければ出入りすることができる。

「こんばんわ! 門開けてください!」

ランが城壁の上にいる門番に声を上げながら手を振る。門番の方もすぐに気づいて片手を上げて姿を消した。降りてきてくれた門番が門の横に取り付けられた小さい扉から出てきた。全身金属鎧で身を固め、右手には槍を持った如何にもといった兵士姿の男が降りてきた。

「おうご苦労さん。こんな時間まで狩りをしてたのか精が出るじゃないか……ってなんだその荷物の量はどっから持ってきたんだ?」
「森を探索中ゴブリンの巣を見つけましてこれを壊滅させました。その折遺留品と思われる物品を持ち帰った次第です」
「ゴブリンの巣を壊滅!? お前ら三人でか?」

門番が驚きの声を上げる。まぁそれはそうだろう私たちはまだまだ子供。一体一体は弱いゴブリンとはいえ、集団になれば熟練の冒険者だって手を焼くゴブリン。それもその巣を子供三人で壊滅させたと聞けば誰も信じはしないだろう。

「そうだよ〜。僕たちこれでも強いんだから!」

ふふんと胸を張るランを信じられないという目で見る門番。それが正しい反応だ。

「それよりも確認するなら確認してもらってもよろしいでしょうか?」
「あ、ああそうだな」

職務を思い出した門番は慣れた手つきで私たちの持ち物と冒険者カードをチェックしていく。

「問題ないな。行っていいぞ」
「はーい」

ウラーナに無事に入れた私たちは真っ直ぐにギルドに向かう。夜のためかカウンターにいるのは叔父さん一人だけだった。彼の前に荷物を置く。

「お願いします」
「おかえり結構頑張ったみたいだね」

袋の中身を確かめながら叔父さんがにこやかに話しかけてきた。

「うん! 巣を潰してきたからね!」
「そうかそうか巣を潰してきたんだね……えっ?」
「その子の言ってることは冗談ではありませんよ。その巣から持ってきた遺留品と思われる物です。可能なら家族の方に渡してあげてください。あとこちらを買い取ってもらえると助かります」

隣のカウンターに遺留品とゴブリンから奪った剣を置く。叔父さんは驚きながらもその一つ一つを確認していく。

「……確かにここ最近姿を見せない冒険者の物もあるみたいだ。こっちの剣もゴブリンが持っていた物にしては質がいいな……巣といったがどこにあったんだい?」
「アスリアの森にありました。詳しい場所まではこちらも把握出来ていません。ですがここ最近のアスリアの森でのゴブリン報告はきっとこの巣の個体だと推察されます」
「確かに今日依頼を受けた冒険者がいると聞いていたが君たちのことだったのか……噂通り優秀のようだな。すぐに報酬を持ってくるから待っていてくれ。あとこちらも預かっておく。責任を持って返すから安心してくれ」
「お願いします」

叔父さんは奥から人を呼び、分担して荷物を奥に運んでいった。遺留品が家族の元へ届くのを祈るばかりだ。


報酬を受け取り早足で森の妖精亭へ向かっていた。

「予定よりかなり遅くなっちゃった。ダドリーさんたち心配してるかしら?」
「うーん僕の予想だとダドリーさんとミェルさんはお酒を飲んでると思うよ」
「……ロロもそう思う」
「実は私もそう思ってた」

笑い合う私たち。あと一つ角を曲がれば森の妖精亭だったのだが、そこからでも聴き慣れた陽気な声に私たちは更に笑みを深めたのだった。



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