積み重ねられた言葉

幼き子供の頃
大人達からは見放され
子供達から慕われた
夢吐く老人は語った

「本当の光は見えやしない
 光は闇の中でこそ輝くものだからな」

大好きな人が教えてくれた物語を
僕達は信じては探して見ようと
休みの時間を使っては
街の至る場所を夢中で旅した

確信できる何かを見付けられる訳でもなく
それでも諦めなければと
僕達の冒険は続くけれど
時が流れる度に何かを失った

初めは共に追い掛けた仲間が
次には大人達の信用が
少しずつ挫けて行く心に
僕は負けてしまい老人に尋ねた

「答えは人それぞれなんだ
 自分の答えは自分で見付けなさい」

老人は笑いながら答え
そして直ぐに亡くなった
僕は全てが壊れて行く様に思えて
自分を守る為に無垢な心を自ら捨てた

成長して大人になってから理解する
世界の現実に埋め尽くされる絶望の彩り
小さな失敗が連鎖しては
罵られる日々

だけど老人が語った言葉は今でも心に揺れる
嘘吐きと罵られても夢を語った老人は
何故あんなに幸せそうに笑えたのか
僕にはわからない

積み重なっていく不幸に絶望
世界は闇色に染まり
全てが苦痛に思えて来る
項垂れる僕の手に何かが触れる

雪降るベンチに腰掛けた僕の隣
懐かしい女性が僕の冷たい手を握り笑う
その姿を見て走馬灯の様に掛けて行く
色褪せた思い出に老人が笑う

離れていく仲間達の中
最後まで僕に付いて来ていた女の子
ズルをして老人に教えて貰おうとした時
老人が笑いかけた先に居た女の子

心を捨てて孤独に落ちた時
本気で泣いていた女性
最後まで僕を信じてくれた唯一の人
老人の言葉が頭に響く

「本当の光は見えやしない
 光は闇の中でこそ輝くものだからな」

あの時は夢中になれるものがあったから
見えてなかった
あの時には光が溢れていたから
見てなかった

直ぐ傍にあった確かな光を
気付かずに見逃した
それでも老人は幸せそうに笑う
僕の姿に女の子の姿に未来を信じて

「見付けたよ
 僕の光を僕だけの答えを」

一筋流れた涙を
誰が見逃そうとも
見続けてくれる人
僕だけの何にも負けない輝きを

とある田舎町に住む
嘘吐きな老人は
子供達に夢を語る
後ろに微笑む老婆と共に

「本当の光は見えやしない
 光は闇の中でこそ輝くものだからな」

紡がれて行く物語に
終わりは存在しない
確かに存在する縁が
消え去らない思い出があるから

なぁそうだろ
僕の大好きな爺さん


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