時間停止

僕とずっと一緒に生きて来た
隣で優しく微笑み続けてくれた君を
失ってから今まで
時を刻むことを許されない時計は
あの日のまま時を止めている

何一つ変化せず流れていく日常
全てが気に食わない街に蠢く人々も
定刻通りに街に響くサイレンも
あの日に僕を置き去っても
顔色すら変えやしない

いや本当は理解しているんだ
あの時君と一緒に
僕も刻む時を失った事を
世界が置いて行くんではなくて
僕が動かず離れて行っているんだって

だけど僕にとってはあの時が全てだった
あれ以上の幸福なんて何が望めるのか
僕には分からない
君を失った時に全てを失くしたんだ
世界への興味も生の実感すらも

街に出て見ても隔絶されている様に
雑音が耳を通り抜け
意味を拾おうなんてしやがらない
真夏の暑さだけが
君の思い出を振り返させる

追憶に揺れる君に立ち尽くし
一筋の涙が零れる僕の視線の先
陽炎の中一瞬君が僕を見て笑う
慌てて追い掛けても
其の場所には誰一人居やしない

そうだ君はまだ覚えてくれているんだね
僕が人に笑われる度に
本気になって努力する事を
君は許してくれないんだね
あの時間に留まる事を

時計に突き刺された刃は抜き取られ
時を刻み始める
幻の君に背中を押され
変わって行く変わらないままの
世界に一歩を踏み出した

僕の中の時間と共に


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