〜冒険者編〜第16話

グレート・ホールようするに食堂に案内され、各々が席に着き、お茶を出されたところで、男性が杖をついて現れた。右足を引きずっているところを見ると不自由なのは右足みたいだ。でも慣れた様子で苦も無く男性は上座の椅子に腰を落ち着けた。その後ろに当たり前のように女性が控える。

「お待たせしてすまない。そういえば自己紹介がまだだったな。私はシャルトール・ノビリス。ノビリス家の当主をやっている。こちらは妻のシエナだ。そして長男のクラレット。次男のヘリオだ」

改めてシャルトールさんがそれぞれ紹介してくれた。シエナさんとクラレット、ヘリオ兄弟が紹介に合わせて軽く頭を下げる。それに合わせてこちらも頭を下げておく。

「息子らを助けてくれたのは本当に感謝している。それでその腕を見込んで頼みたいことがあるのだが……」

本題が来たみたいだ。さてめんどくさくないといいんだけど。

「豊穣の森の異変は知っているだろうか?」

思ったよりも身近な問題が来たな。有益な情報が得られるといいけれど。

「私たちは豊穣の森を通ってきてこちらの街に来ました。霧がかかり、目の前がほとんど見えない状態でした。また生き物の気配というものが全く感じられませんでしたね。なにかに妨げられてるというとそれが一番近いと思います」
「そうか。お前たちはあの森を抜けて無事だったのか……」
「それはどういう意味でしょう?」
「あの森がおかしくなったのは大体一月前くらいだ。最初は森の生き物が姿を消したらしい。その次に霧が立ち込めだしたというのが調べた結果分かった」

なるほど。順序が逆だったのか。生き物が消えてから霧が発生した。生き物ってか動物は異変に敏感だから察知して逃げ出したと考えると辻褄は合うわね。問題は何を察知して逃げ出したのかってことか。天災か天敵かそこらへんはっきりさせないと分かりそうに無いわね。

「だがこれ以上のことは何も分かっていないのだ。豊穣の森に調査を出したんだが帰ってこず、行方不明者を捜索するのにまた人をやったのだがそいつらも帰ってこなかった」 「二次遭難になってしまったんですね」
「ああ。結構な腕利きを送ったんだがな……それで頼みたいことというのは君たちの腕を見込んで豊穣の森の調査を引き受けてくれはしないだろうか?」
「遭難者の救出ではないのですね?」
「ああ。非常に残念なことだが、おそらくは生きてはおるまい」
「そうですか……」

シャルトールさんが手を組んで窺うようにそれぞれの顔を見つめてくる。

「それでどうだろうか。受けてはもらえないか? これはギルドを通した正式な依頼ではないためランクアップは出来ない。だがそれ相応の報酬は払う用意がこちらにはある。どうだろうか?」

ギルドを通さない依頼ね。ランクアップの足しにならないのは痛いけど相応の報酬というのはかなり高額ということが予想できる。だけど引っかかるのはなぜギルドに正式に頼まないかという点だ。なにかまずいことがあるのだろうか……この依頼断っておくほうがいい気がする。

「私たちは先日冒険者になった新人です。目を掛けてくれるのは嬉しいですが今回のことは荷が重いと判断しますので辞退させてもらいます」
「君なら問題ないと私は思うのだが」
「申し訳ありません」
「ふむ……仕方あるまい。ではカーン殿。貴殿らはどうだ? 受けてはくれないだろうか?」

カーンさんたち三人は顔を突き合わせて相談しているみたいだが、やがて決まったのか顔を上げて、シャルトールさんを真っ直ぐに見つめ返す。

「申し訳ありません。私たちもこの依頼はお断りさせていただきます。私たちは冒険者です。冒険者はギルドから依頼を受けるものです。ですので今回の依頼お断りさせていただきます」

きっぱりとはっきりとした口調でカーンさんも断った。貴族とか関係なしのその潔さに見直した。

「そうかならば仕方ない。だがこのことは他言無用で願いたい」
「もちろんです。このことは決して口外したりはいたしません」
「はい」

そこで話は終わりとシャルトールは立ち上がる。無言で退室を促される。出されたお茶とお菓子に夢中になっていたランを引きずって今度はメイドさんに見送られて屋敷を後にした。


私たちは言葉なく貴族区画の関所を通り抜けた。

「はー無事に出る事ができたか」

思わず漏れたため息。どこか体に無駄な力が入っていたのに気付いた。

「さて俺たちは宿に戻って体を休めるが君たちはどうするんだい?」
「私たちも宿に戻りますよ。元々今日はお休みする予定でしたからね」
「そうかい。それじゃまたギルドで会おう。ラン君とロロちゃんもまたね」
「うんばいばーい」
「……さようなら」
「さてさてそれじゃ私たちも戻りましょうか」
「お菓子最後まで食べたかったよ〜」
「……もうランったら。私は緊張して倒れそうだったよ」

そんな些細なことを話しながら宿に戻った。貴族との接触はきっと二人にとってもなにかの糧になることだろう。


「そうか。それは俺たちもまだ掴んでない情報だった。よく教えてくれた」

私は二人が寝静まった後、ダドリーさんを呼び出して今日シャルトールさんから聞かされた話を伝えていた。

「いえ。念の為にお伝えしておいて良かったです。ダドリーさんの方はなにか掴めましたか?」
「……ミェルが見た影のこと覚えているか?」
「ええ。なにか嫌な予感がしたとかおっしゃられてましたね」
「ああ。その情報を集めてみたんだが、冒険者の中にも同じように見た奴がいたらしい」
「本当ですか!」

それは一気に確信に迫る情報だ。原因の根源なのか。違うのかそれが分かるだけでも大きな進展になることは確かだ。

「そんな喜ばないでくれ。又聞きでしか話は聞けなかったんだ。ただそいつの話ではその影はかなりのでかさだったらしい。そいつは近づいて正体を確かめようとしたらしいんだが、すぐさま逃げられたんだと」
「大きい影ですか……なんなんでしょうか……」
「今ここで考えても仕方ないだろう」
「そうですね……」
「今日のところはこれくらいにしておこう。明日はまた依頼を受けるんだろう?」
「ええ。明日は討伐依頼があればそれを受けようと思っています」
「ならゆっくり寝て休まないとな。くれぐれも油断するなよ」
「大丈夫です。油断なんてしませんよ。それではおやすみなさい」
「ああおやすみ」

さて明日もしっかりと稼がないとね。



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