〜冒険者編〜第17話

翌日私たちは朝早くからアスリアの森の中に入っていた。それというのもギルドに向かうとアスリアの森にゴブリンが住み着き始めているため討伐を願うという依頼が来ていたからだ。渡りに船とすぐさま手続きを済ませて今はゴブリンを探しながら森を探索している。

「ゴブリンどこいるかな〜」

ランはすでに抜剣して、きょろきょろと辺りに忙しく視線を飛ばしている。

「……いきなり飛び出てきたりしないよね」

ロロは杖を体の前で握り締め、不安そうな顔で私の服の裾を持って歩いている。

「大丈夫よ。昔ならいざ知らず今の私たちの実力でゴブリンなんかに遅れを取ることは無いわ」

そう昔ならいざ知らず今の私たちがゴブリンに負けることはない。ただこれは真正面から一対一で戦った場合だ。集団に囲まれたり、不意打ちで攻撃された場合は分からなくなってしまう。それだけは避けなければならないと私たちは警戒を厳としてゴブリンが巣にしそうな洞窟や木の穴なんかを探している。

「あっフェルちゃんこれ」

ランが木の一部を剣先で指している。それは丁度私たちの胸の高さに付けられたひっかき傷のようなものだった。

「これって確かゴブリンが自分たちの縄張りだって主張するときに使う傷だよね?」
「そうみたいね」

ランが言ったとおりゴブリンが付けた傷のようだ。ゴブリンが付ける傷は簡素な石を削ったナイフで付けるため自然に付く傷とは全く違う傷が付く。私たちはそれを実際にダドリーさんに見せてもらっていたためすぐに分かった。

「近いわね。ここからは更に慎重に先に進みましょう。いつゴブリンと出くわすか分からないからいつでも戦闘に入れるようにね」

二人は静かに一つ頷いた。
姿勢を低くし、ゆっくりと進んでいく。息を殺し、足音を消し、自分の姿はないものとしてただ無心で前へ進む。傷を見つけた場所からしばらく進むとまた傷を見つけた。

「傷がこっちにもあるってことはこっちのほうに巣があるってことだね」

森の一角を見つめて呟いたランに私は頷く事で肯定を示す。ゴブリンが付けるこの傷は巣を中心として円状に付ける習性があることが分かっている。私たちが来た方向とこの傷が付けられた場所からゴブリンの巣の方向を推測するのは容易い。

「いよいよゴブリンとご対面か〜……腕が鳴るね!」
「気合が入るのはいいことだけど空回りして失敗しないようにね」
「……少しの失敗くらいならロロがサポートするからランは思いっきり突っ込んでいいよ」
「ホントロロちゃん! それじゃ甘えちゃうからね〜」
「……うん」

二人の気合も十分みたいだ。

「ん? フェルちゃんなんか匂いがするよ。犬とか猫みたいな動物に近い匂いだよ」
「ゴブリンの巣が近いのかもしれないわ」

しばらく進むと地面が隆起して出来上がったのかちょっとした崖が出来ており、そこに出来た亀裂。そこからゴブリンが出入りしている。

「当たりだったみたいね」

生意気に洞窟の入り口には見張りを立て、先端に石を使った粗末な鑓を握って暇そうに欠伸なんて漏らしている。

「ゴブリンも欠伸するんだね〜」
「そんなことはどうでもいいでしょうが……さてまずは私があれを始末してくるから二人はここで待ってて」
「……一人で大丈夫?」
「大丈夫よ。すぐに済ませてくるから待ってて」

中腰の態勢でその場を離れ、登り易そうな手頃な木を見つけ素早く枝上に登り上がる。木々の葉が邪魔をして向こうからはこちらが見えない絶好の場所だ。

「さて……」

愛用の投げナイフと液体が入った小瓶を取り出して液体を刃にたっぷりと塗りつける。小瓶の中身はミェルさんが調合した即効性の高い痺れ薬だ。原料は秘密とかで教えてくれなかったが、この薬を摂取すると全身の筋肉が弛緩し、まともに立てなくなってしまう強力なものだ。

「これでよし」

しっかりと塗り込んだのを確認してからじっくりと狙いを定める。正直刺さればどこでもいいのだが、刺さりやすく狙いやすい場所は限られている。今回の場合はゴブリンの太ももだ。ゴブリンの身体構造は人間と似通っている。厚い肉と太い血管が集中している太ももはゴブリンも同じだ。

「ッ!」

手首のスナップを意識して投げる。油断しきったゴブリンの太ももに真っ直ぐに飛ぶナイフは深々と突き刺さり、悲鳴を上げようとしたのだろう大きく口を開けたがすぐさま足元から崩れ落ちた。
恐ろしいまでの即効性だ。使っておいてなんだけどこれを自分に使われたと考えると空恐ろしいものがある。
音を立てないように慎重に木から降り、人差し指を口に当てたままランたちと合流しゴブリンの巣の入り口まで移動する。
筋肉が弛緩してまともに動けないだろうがそれでも手足がピクピクと動いているところを見ると必死にもがいている。
首を撫でるようにナイフを走らせ、息の根を止めておく。そして忘れないように討伐の証である耳を削ぐ。

「それじゃ二人とも突入するわよ」
「了解だよ!」
「……頑張るよ」

各々武器を構えたのを確認してから突入を開始する。
さて今の私の実力試させてもらうわよ。




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