〜冒険者編〜第19話

横穴はでこぼこしていて歩きづらかったが少しばかり傾斜が付いて上に向かっているのは救いだった。

「これちゃんと上にまで続いているのかしら?」

光を飛ばして前方を確認しても似たような光景が続くだけでちょっとげんなりだ。

「いざとなったらまた使うしかないけど……最終手段だしな〜」

ちらと自分の手を見て思い浮かんだ案を脇に追いやる。とりあえず今は足を動かすことだけを考えよう。
それからどれくらい歩いただろう。この足場の悪い中光源一つで歩くのはかなり体力を持ってかれる。傾斜も更にひどくなり、しかも予想していたよりも全く出口が見つからず精神的にも体力的にもちょっときつい。

「でも行き止まりになっているよりかは救いがあるのかもしれないかな」

これで行き止まりだったら後先のことを考えずに鬱屈した感情を壁に向けて発散していたかもしれない。

「ちょっと休憩……」

手頃な岩に腰を下ろして壁にもたれかかる。

「ランは無事に這い上がってロロと合流してくれたかしら……私を助けるって無茶言ってないといいけど……うーん……」

考えてしまうと更に心配になってきた。

「よし!」

とりあえず行き止まりに当たるまでは全力で突っ走る。行き当たってしまったらもうためらい無く力を使う。これでいこう。
そうと決まれば後はやるだけだ。体を巡る魔力を足に集中し、一気に駆け出す。
強化した脚力でこの狭く暗い場所を駆け抜けるのは恐怖を覚えたが意思の力で恐怖を抑え付け、更に足に力を込める。ここでまた落とし穴でもあれば私はなす術もなく落ちることになるだろう。でもそれだけの危険を度外視しても急がなければならない。

「あれは!」

道の先に揺らぐ光が薄っすらと灯っていた。あれは松明の炎だ。

「やった! 出口!」

一目散にその灯り目指して飛び込んだ。そこはかなり広い空間だった。そしてその中央で床に獣の皮を敷いて卓を囲む鎧を着たゴブリン三匹の姿があった。

「はぁ!?」

思わずな展開に私は声を上げてしまった。その声にもちろんゴブリンも気付く。せっかくの不意打ちチャンスを自らふいにしてしまったのは痛い。そいつらは他のゴブリンよりも体格が良く、胸当てや肘当てなどの防具を身につけている。おそらくゴブリン・ウォーリアーと呼ばれる個体。群れのボスなのは間違いない。ここで見つけられたのは僥倖だ。

「ちょっと予定が狂っちゃったけど殺させてもらうわね。」

今回は背中に吊ってある刀を左手に持ち替え、柄に手を当て静かに鯉口を切る。いつでも抜刀できる準備を果たしたところでゴブリンどもも慌てた様子でロングソードを抜き放つ。抜き放たれた剣は松明の明かりを鈍く輝かせている。ゴブリンが持っている剣にしては小奇麗に磨かれていてその切れ味は確かめる必要はないだろう。

「「「グガー!!」」」

剣を振り上げ襲い掛かるゴブリン・ウォーリアー三匹。一匹は正面から、残り二匹は左右から時間差をつけて向かってきた。正面は完全に囮。本命は左右どちらかだが、おそらく左が本命。右のほうが若干だが左よりも早い。
私は前を見据えたまま腰を落とし、迎撃の構えを取る。意識は自分の右手とゴブリン・ウォーリアーの動きのみに集中する。視界からは私とゴブリン・ウォーリアー以外の姿は消え、ついで色が抜け落ちていく。
完全に白黒の世界に突入すると次は音が消えていく。そして完全に発動したことが足元に現れる時計を模した魔方陣が教えてくれる。

お父さんが託してくれた刀。銘は時雨。この刀は普通の刀ではなかった。銘を刻まれた裏側に″生体加速(クロックアップ)″の刻印魔法が掘られていたのだ。刻印魔法はすでに廃れ忘れられた魔法体系の一つ。物体に文字や記号を掘りそこに魔力を流すことによってその効力を発揮する。そしてこの時雨に掘られていた″生体加速(クロックアップ)″は使用者の思考を加速するもの。その力は絶大だ。

「っ!」

ゆっくりと正面のゴブリン・ウォーリアーが振り上げる剣をどこか冷めた気持ちで見ながら隙だらけの胴に向けて居合いを放つ。思考が加速する言葉にするとそれだけだがこれは戦闘において絶対のアドバンテージを持つ。相手の動きを余裕を持って観察できる上に副産物もこの魔法は与えてくれる。

「グガッ!?」

一太刀で上半身と下半身をお別れさせ、その勢いを殺さぬままにそのまま右のゴブリンの首もいともたやすく跳ね飛ばす。

「これで……終わり!」

鞘を捨て柄に両手を添えて一刀のもとに両断した。刀を一振りして血ふるいを行ってから納刀する。刃が完全に鞘に納まると私の世界に色と音が帰って来る。

「はぁはぁはぁ……」

荒い息を吐きながら私は膝を付き崩れ落ちた。膝が笑い立ってられなかった。腕も痺れて刀も滑り落ちていく。
時雨がもたらしてくれる″生体加速(クロックアップ)″の効果は思考の加速。ただこれには副次的な効果もあった。それは伝達神経をも加速させているということだ。これにより私は自分の速度の限界を無視して体を行使することができる。よって″生体加速(クロックアップ)″がかかっているときだけ私は通常よりも速く動くことができる。その代わり時雨を納刀すると″生体加速(クロックアップ)″も効果を失い、その途端無理に体を酷使する代償として全身を疲労と筋肉痛が走り、思考の加速が頭痛をもたらす。
また私の魔力では″生体加速(クロックアップ)″を維持するのは二秒が限界でほんの一瞬発動するだけでもかなりの魔力を持ってかれ、体を魔法で強化したとしても″生体加速(クロックアップ)″がそれを打ち消してしまうのだからたちが悪い。

お父さんが何をもってこのじゃじゃ馬を託してくれたのかはっきりとしたことは教えてくれなかったがこれを抜くたびに絶対に使いこなせるようになってやると決意を新たにする。

「さてそろそろ動けるかしら」

まだ動かすと鈍い痛みが走るがそれを無視してゆっくりと体を起こす。

「いっつつ……"強化(ブースト)"!」

魔力を動きを補助するイメージで体を覆う。それによって多少痛みが抑えられる効果が生まれた。

「これ貰っていくわよ」

すでに事切れているゴブリン・ウォーリアーに断りを入れてロングソード三本を回収する。この状態でダガーでの戦闘は厳しいため間合いが少しでも長いロングソードを使おうという魂胆だ。それに状態も結構いいから売れば多少のお金になるだろうしね。

「それと……」

ゴブリン・ウォーリアーがいるとは思わなかったからどこが討伐部位なのかわからないがとりあえずゴブリンと同じように耳を殺いでおく事にする。

「願わくば敵と出くわしたくはないわね」

ロングソードを杖代わりにそう呟いて奥の通路に向かう。



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