〜冒険者編〜第14話

翌朝、昨日食べ過ぎたランの看病をロロにお願いして私は一人でギルドに向かっていた。

「ん? あれは……」

ギルドの入り口で中を窺う小さな影があった。本人は隠れているつもりのだろうがいかんせん身を隠せそうな物がないため丸見えだ。ギルドに用のある冒険者も怪訝な様子だが声も掛けずに入っていく。

「君たちどうしたの?」

私が声を掛けるとその影はビクッと反応して弾かれた様にこちらに振り向く。私よりも一、二歳下だろう。子供らしい生意気な瞳が四つ私の瞳を覗き込む。

「昨日のお姉ちゃんだ!」

下の子が指差して私を示してくる。

「君たちは……ああ昨日カーンさんたちが助けた子たちだね。こんなとこでどうしたの?」
「昨日お世話になった冒険者の方々にお礼を言いたいから連れて来て欲しいと両親に言われたのでここで探していたのです」

私が聞くと上の子が年の割にはしっかりとした話し方だった。

「ならカーンさんたちに会いに来たのね。でもたぶん今日はお休みするんじゃないかな。怪我が治るまで休むみたいな話をしてたからね」
「そうですか……あなたはそのカーンさんたちと連絡を取れたりはしないんですか?」
「残念ながら知らないわね。今日じゃないとダメなの?」
「ええ。今日でないと時間を作れないそうなんです」
「そうね……ちょっとここで待っててくれるかしら」

そう言い残し私はギルドの中に入って目的の人物を探す。カウンターの奥にいたので手を振って呼ぶ。

「お姉さん〜」

すぐに気付いてお姉さんがこちらに早足で来てくれる。

「どうしたの?」
「お聞きしたいことがあるんです。カーンさんたちが宿泊してる宿を知ってるなら教えて欲しいのですが」
「藪から棒にどうしたの?」
「ええ実は……」

入り口でこちらの様子を伺っている子供たちのほうを指差しながら説明する。

「そう。そういうことなら教えても大丈夫そうね」

納得してくれたお姉さんはカーンさんたちの宿泊してる宿の名前と場所を教えてくれた。

「ありがとうございました」
「いえいえ〜今日は依頼受けてかないんでしょ?」
「ええ。今日はお休みです」
「分かったわ。それじゃゆっくり休むのよ〜」
「そうなればいいけどね」

小さく一人ごちる。

「聞いてきたよ。それじゃ付いて来て」

付いて来るのを横目に確認して頭の中に地図を出して、教えてもらった場所の当たりをつける。
カーンさんたちが泊まってる宿もギルドからそこまで離れていないが、少し奥まったところというか分かりにくいところにあった。
名前は蜥蜴の尻尾亭。いかにも見捨てられそうな人が泊まってそうな名前だ。カーンさんたちには泊まる宿を変えるように言った方がいいかもしれない。
扉を開けて中に入るとそこには肘をついて宿帳を書いている男の姿があった。

「すみませんこの宿にカーンさんという冒険者の方が泊まってるはずなんですがどの部屋に泊まってるか教えてもらえませんか?」
「カーンさんなら二階の一番奥の部屋だ」
「ありがとうございます」

思ったよりもあっさりと教えてくれた。子供だからかな。まぁ今はとりあえずカーンさんたちだ。後ろには子供たちも付いて来ている。

ノックする。 「はーいどちらさまですか?」
「フランさんですね。フェルです。少しお時間よろしいですか?」
「フェルちゃん一体どうしたの?」

戸惑いの声を上げるがフランさんはドアを開けてくれた。

「いきなりすいません」
「この宿教えたっけ?」

デルさんが当然の疑問を浮かべる。

「いえ、皆さん方を探してる人がいたのでギルドのお姉さんに聞いてきました」
「俺たちを探してるって一体誰が探してるんだ?」
「それは……入ってきなさい」

扉の前で待たせていた子供たちを中に入れる。
部屋に入ると長男の方が綺麗なお辞儀で頭を下げる。

「昨日は本当に危ないところをありがとうございました」
「ああ君たちか。お礼なら昨日十分に言ってもらったのにわざわざありがとう」

カーンさんが穏やかな微笑を向けて話しかける。

「そのですね。私たちの両親が直接皆さんにお礼と言いたいと申しており、これからぜひ我が家にお越し頂きたいのです」
「君たちの家にかい?」
「はいそうです」
「ふーむ俺は別に構わないと思うんだが二人はどうだろう?」
「僕も構わないよ」
「私は二人の世話する予定だったし、二人が行くなら私も行くよ」
「それじゃお邪魔してもいいかな?」
「ありがとうございます!」

もう一度勢いよく頭を下げた。

「話も纏まったようなので私はこれで失礼しますね」

一言断って部屋から出ようとしたところで何かに引っ張られた。

「どこいくのお姉ちゃん?」

次男の方に服の裾を掴んでいた。

「どこに行かれるんです? お姉さんもご招待してるんですが」
「……あれ? 初耳なんだけど」
「お姉さんたちも連れてくるように言われています。ぜひ来てください」

ああなんか知らないうちに逃げられなくなってる。
しかも面倒ごとの匂いまでするし……。

「はぁ」

思わず口からため息が零れてしまった。

「分かったわギルドで待ってて。私が呼ばれてるってことはランとロロも一緒のほうがいいんでしょう?」
「ぜひお願いします!」
「はいはい。それじゃまだ後で」

おざなりに手を振って部屋を後にした私は森の妖精亭に足早に戻る。気が進まないけど遅くなるとカーンさんたちまで待たせてしまうから致し方ない。

「はぁ……」

もう一つため息をついてランが動けるようになっていることを祈りつつ、肩で風を切るのだった。



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