第10話

今日の街中は何か賑わっていた。お母さんに話を聞くと冒険者がこの街を訪れたらしい。

冒険者とはギルドと呼ばれる仕事斡旋組織に所属する人をそう呼ぶ。ある程度の大きい街には一つギルドの支部が置かれており、そこでクエストと呼ばれている街の住人から寄せられた雑用や魔物退治を受注して報酬を受け取るといういわゆるなんでも屋みたいなことをしている。

この街はギルドは設置されているが周りに魔物退治など高額のクエストが貼られることがないため冒険者は寄り付かないのだが、今回やってきた冒険者は魔物の死体を持って来たためお祭り騒ぎになっているようだ。

「冒険者を見に行こう!」

家にすっ飛んできたランが開口一番そう叫んでいた。

「冒険者か……見物に行きましょうか。ロロはどうする?」
「……二人が行くならロロも行く」

三人で冒険者が今いるであろうギルドに向かう。
ギルドの前は人で溢れ返っていた。全員私たちと同じ見物人だろう。

「これだけいると見れないね〜」
「そうね。みんな同じこと考えてたみたい。冒険者が来るのってずいぶん久しぶりだそうだから」
「……ここには冒険者っていないの?」
「まるっきりね。ここら辺には魔物はいないし、街のことも大抵自分たちでやってしまうからクエストが全く張り出されないのよ。迷宮(ダンジョン)も近くにはないからね。仕事がないなら冒険者は皆、別のとこに行ってしまうってわけよ」
「……けど魔物もいない。迷宮(ダンジョン)が近くにもないのはいいことだね」
「たまにはぐれたのが来るくらいで平和なものよ」

迷宮(ダンジョン)、人工物なのか自然物なのかはっきりしていないがモンスターが自然に発生し、その迷宮(ダンジョン)から抜け出したモンスターが周囲の街や村に被害を与えるため迷宮(ダンジョン)はギルドが厳しく監視しており、新しく迷宮(ダンジョン)が見つかった場合は即刻ギルドに報告する義務がある。そして発見された迷宮(ダンジョン)はギルドの管理の元定期的にモンスターの駆除が冒険者の手によって行われている。

「……あ、でもそんなに魔物とか少ないならもうちょっと街大きくなるんじゃない?」
「そういうわけでもないわ。ここ国の端の方にあるし特産物とかそういうのもまるでないから発展しようがないのよ。それに街と街の距離が結構あるから交流も少ないからね。外から人が来たら街全体でおもてなしってのが慣習化してるのよ。冒険者じゃなく商人でも吟遊詩人でもね」
「……そうなんだ」
「自給自足も成り立ってるから商人もあまり寄り付かない。それなら別のとこで売った方が利益を見込めるから。まぁたまに酔狂な商人が物珍しい物持って来るときはあるけどね」
「……つまり世間に疎い街なんだ」
「そういうこと。だから今どんなことになってるのか色々聞きたいからおもてなしするってわけよ」

人だかりをどうにか掻き分けて前に進もうとしていたランを捕まえつつ、その場から引き離す。

「これだけいると無理よ。諦めましょう」
「ええ〜外のお話聞きたいよ〜」
「ここに外のこと教えてくれる人物がいるでしょう!」

ロロのローブを引っ掴んでランの目の前に突き出す。

「ロロも外から来たんだから色々聞くといいわ」
「そうだった……そうだったね! ロロ外のこと色々教えて!」
「うん……ロロが教えられることなら教えてあげるよ……」

ロロが勢いに押されて口ポカン、目が点の状態で頷かされた。勢い負けしたのである。

「やった約束だからね!」
「すこし落ち着きなさい。それで話変わるけどどうするこれから。山に行ってる時間もないしどうしようか?」
「う〜んそれじゃフィルちゃんの家でロロちゃんから外のお話聞きたいな〜」
「さっそくなのね……私は別に構わないけどロロはどう? いいかしら?」
「……ロロは全然いいよ」
「了解。なら私の家に行きましょうか」
まだ混沌としているギルドの前から私達は早々に退散した。



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