第12話

 空き地に着いた私たちは準備体操で体を温めた後、木剣を構え、対峙する。ギャラリーはお母さんとランとミェルさんだ。

「ルールは嬢ちゃんが俺に一撃でも入れたら勝ち。嬢ちゃんがへばったら俺の勝ちだ。ちなみに俺からは仕掛けないから安心してくれていいぜ」
「随分優しいのですね。私のほうが有利じゃないですか」
「いやさすがに俺が大人気なく攻撃するのはまずいだろう」
「後悔させてあげます」
 ダドリーさんはだらんと木剣を垂らしたまま私をじっと眺める。
 まずは軽く当たってみますか。
 私は素早くダドリーさんに接近し、狙いを手に絞る。私のリーチじゃダドリーさんの体にはどうしても長さが足りない。なら届くところを攻撃すればいい!

「ハッ!」

 私はフェイントを交えながら袈裟切り、逆袈裟切り、振り下ろし、水平切り、息をつかせぬ連続攻撃を仕掛ける。

「ほう……これはなかなか」

 ダドリーさんはわずかに剣を傾けるだけで受け流し、攻撃を逸らす。百合、二百合と剣戟を交えるが完全にあしらわれている。

「どうだい? いい加減諦めがついたか?」
「ハァハァ……いいえまだ行きますよ」

 私は魔力を放出させ、精霊を集める。

「炎(ブレイズ)=v

 炎の精霊を使役し、直径五センチ程度の火の玉をダドリーさんの顔目掛けて放つ。

「ほう。精霊術も使えるのか」

 事も無げにダドリーさんは剣圧で火の玉を掻き消す。だが関係ないもとより精霊術は囮。一瞬の隙さえ作り出せればそれでいい!

「ハァ!」

 そこから更にダドリーさんの虚を突くため私は木剣を投げつけた。

「なっ!?」

 咄嗟の攻撃にも少し驚いただけでダドリーさんはきちんと反応して木剣を弾いてくれた。
 予想通り更に隙が出来たところでダドリーさんの懐に飛び込む。

「これで終わりです!」

 地面をしっかり踏み締め、腰溜めに構えた拳を真っ直ぐダドリーさんの鳩尾目掛けて突き入れる。

(勝った!)

私は最高のタイミングと最大のチャンスで放った攻撃は通ると思っていた。
だが―――

「甘いな」

上には上がいる。その言葉を実感した。
私の拳はダドリーさんの鳩尾に入る前に彼の無骨な手によって優しく包まれていた。

「どうするまだ続けるか?」
「いえ……これ以上続けても無駄時間を……使うだけです……私の負けです」

 私は息を整えながらそういうだけで精一杯だった。実際さっきの攻撃が今の体力でできるラストチャンスだったのだ。肺がキリキリ痛んで酸素を欲している。ここまで体を酷使したのは初めてかもしれない。でも自分の力の限界を知ることが出来たのは上々かもしれない。

「それじゃ約束通りランに剣を教えても問題ないな?」
「ええ。そういう約束でしたもの」
「ついでにお前さんも鍛えてやるよ。アンナ構わないよな」
「ええ逆にこちらからお願いしたいと思っていましたから。今はまだいいかもしれませんがいずれ取り返しのつかない怪我をしないかと心配していましたから」

 お母さんが困った顔をしている。直接は言わなかったが心の内では相当心配させてしまっていたのか。後できちんと謝らないと。

「よしそうとなりゃ明日からさっそく始めるとしようか。ミェルお前も手伝えよ」
「構わないよ。体を訛らすわけにはいかなかったからちょうどいいしね」

 ミェルさんも頷き快く承諾してくれた。現役の冒険者二人に教えてもらえるなら私はまだまだ強くなれるそう直感が告げている。

「さてそろそろ戻りましょうか。システィたちの方も済んだ頃合いでしょう」

 お母さんが家の方に視線をやりながら、先を歩く。私の体力が歩けるくらいまで回復した丁度いいタイミング。お母さんの観察眼には驚かされることばかりだ。

「大丈夫フェルちゃん?」

 横からひょこっとランが顔を出した。

「あそこまで全力で動いたの初めてだったからね……もっと体力つけなきゃ」
「今度からは僕も一緒にするから一緒に頑張ろう!」

 とってもやる気のラン。ランにそういうことをさせないために頑張ってたっていうのになんかムカムカしてきた。私は鬱憤晴らしにランのほっぺたを摘まんで左右に引っ張りこねくり回す。もっちりしたランの頬を思う存分堪能してやる。

「ひゃなしてよふぇるは〜ん(離してよフェルちゃ〜ん)」
「気の済むまで好きにさせなさい」

 全く人の気も知らないで…………でもまぁランと一緒に強くなるのもいいかもしれないと思うと少し顔が綻んだのが自分でも分かった。



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