家に戻ると居間にシスティさん一人だけが腰掛けていた。どうやら私たちを待っていたみたいだ。 「そちらも済んだみたいですね」 「アンナも気を遣わせたみたいでごめんなさい」 「大丈夫よ。こっちも野暮用で出てただけだから。それでロロちゃんはどうしてる?」 「泣き疲れて寝ちゃったわ。あのまま客室に寝かせてるけど良かったかしら?」 「構わないわよ。それでロロちゃんの身に何が起こったか教えてくれるかしら?」 「ええ」 ロロの故郷はソシア群国の深い森のエルフの村で暮らしていたが、ある日謎の集団に村が襲われ、エルフは持ち前の魔法で対抗したが全く歯が立たなかった。追い詰められた村の大人たちは村が秘匿にしていた古代魔法装置(アーティファクト)「次元の鏡」を使って子供だけでも逃がすことを決め、エルフの子供たちは持てるだけの食糧と少しのお金を持たされて「次元の鏡」でバラバラに転送され、そしてロロは私と出会ったあの洞窟に飛ばされた。ロロは私に会うまであの洞窟で外にも出ず持たされた食料で5日もの間過ごしていた。とこういうことがロロの身に起こったことらしい。 「でもロロはそんなことがあったのに私たちに一言もそのことを話してくれなかったのかしら?」 「エルフは他種族に迫害されてきた種族なの。特に人間にはひどい目に会ってきた。彼女も二人のことは好きみたいだったけど話すのは躊躇ったのね」 お母さんが私の頭とランの頭を撫でながら私の疑問に答えてくれる。 「ロロちゃんに信じてもらえてなかったのか……ちょっとショックだな……」 元気の塊であるランが肩を落としている。私も同じ気持ちだから今はちょっとランを慰める元気が出ない。お母さんに撫でられるまま撫でてもらって癒してもらおう。 「それでダドリーあなたの人脈を見込んで頼みたいことがあるのだけど」 「子供のエルフの目撃情報を集めればいいんだろ? それくらいお安いご用さ。それにエルフの子供なんて目立つからな。見かけたら一発だろ」 「お願い」 「そうそうシルティ明日からこの二人を鍛えることにしたからお前も手伝ってくれよ」 ダドリーさんが立ち込めていた暗い雰囲気を払拭するかのように砕けた調子でシスティさんに言った。 「何がどうなってそんな話になったかわからないけどあなたがそう決めたのなら力は貸すわよ」 「そうか助かる」 「でもちゃんとすることはしてよね?」 「それも分かってるさ」 仰々しく頷いたダドリーさんをシスティさんは苦笑しながら見ている。長年組んでいる者通しの通じ合った絆があるからこその会話なのだろう。 「さぁ今日はあなたたちの歓迎会を開きましょう。暗い空気も振り払うくらい明るく騒いで明日の活力にするわよ」 お母さんがパンパンと手を叩いて歓迎会開催を提案した。それにはもちろん賛成だ。 「お母さん私何か手伝うことある?」 私も率先してお母さんに付いていく。 「それじゃあいつものように下拵えをお願いするわね」 「任せて」 私の返事にお母さんは満足そうに娘の私から見てもとても素敵な笑顔を向けてくれた。
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