第15話

 ランとロロは満腹になったらしく早々に寝入ってしまった。私は盛り上がってる大人たちの世話をするお母さんの手伝いをしてた。

「フェルちゃんまだ眠らなくても大丈夫?」
「私は大丈夫だよ。それよりお母さんこそ大丈夫なの? 後は私がやるからあっちに混ざってきていいよ?」
-「そう? ならお願いしてもいいかしら?」
「うん。眠るときは言うからそれまでは任せて」

 私は洗い物をしながら、大人たちの話に耳を傾ける。お母さんが合流したことにより話は昔話映ったみたいだ。

「それにしても先生たち二人がこのような田舎で収まるとは思いませんでしたよ」
「ホント。いつ騒ぎを起こすか気が気じゃなかったですよ」
「そんなに騒ぎを起こして欲しかったのなら今すぐにでもしてもいいわよ?」
「そうそう。それに別れるときに僕たちを対等だっていう交換条件で騒ぎを起こさないと条件を出してきたのは君たちじゃないか」
「いや……それはそうですがまさか守ってくださるとは思いもよらなくて……」

 ダドリーさんが凄く言いにくそうに口をもごもごさせている。昔のお父さんとお母さんはいつも騒ぎを起こしてダドリーさんたちに迷惑をかけてたってことかしら。今の二人からは想像もつかないけど相当やんちゃしてたのかな?

「あなたたちの心配もわからないではないけどね。私たちがどれだけ昔無茶苦茶してきたかは理解しているつもりよ。まぁ私もこんなに静かに暮らせるとはおもっていなかったけどね」

 お母さんがダドリーさんを慰めるつもりで言ったのかフォローになってないフォローをする。そんな言葉に三人は心底うんざりというか苦悩に満ちるというかそんな感情が入り混じった表情をしてる。

「そういえば君たち今クラスはいくつになったんだい?」
「俺はB、ミェルとシスティはCになりました」
「ふむ。なかなか頑張ったじゃないか。順調だな」
「あなたがたには及びませんが俺たちの努力が実った結果です」
「もっと誇りなさい。それだけあなたたちは頑張ったのよ」

 お母さんの言葉に柄にもなくダドリーさんが照れているようだった。

「それにしても手紙を貰った時は驚いたよ。冒険者家業を休業するって来た時は誰かが怪我でもしたかと思いましたよ」
「いや俺たちの間で決めてたんですよ。あまり根を詰めすぎるのも駄目ということで。目的のランクになったら少し長期休暇を取ろうと決めてたんですよ」
「なるほど。何事にも余裕を持つのはいいことだよ」
「まぁそういうことでこちらなら魔物もいないってことでのんびりするには最適だろうということで足を運んだ次第です」
「何はともあれこっちに足を運んでくれて嬉しいよ。何日でも何年でも滞在してくれて構わないよ。娘も君たちに興味津津のようだからね」
「!?」

 どうやら聞き耳を立ててたことがばれていたようだ。お父さんが私を手招きで呼んでいる。

「いつから気づいてました?」
「最初からだよ。娘のことに気付けない様じゃ父親として失格だからね」
「そういうことはないと思うけど」

 私はお父さんの思い込みにちょっと苦笑してしまう。
「そうだ。アレンツさんあれこの子に渡していいかしら?」
「そうだね。いつかは渡すつもりでいたし、早いうちから慣れてもらったほうがいいかもしれないね」

 お父さんが頷くとお母さんが二人の寝室に向かう。

「この子と手合わせしたんだろうどうだった?」
「そうですね……まだまだ荒削りですけどさすがお二人のお子さんです」
「そうだろう。僕たちの自慢の子供だからね。ダドリー君が高く評価してるならあれを渡しても大丈夫みたいだね」

 お父さんが寝室の方を見るので私もそっちを見るとお母さんが何かを抱えて戻ってきた。

「フェルちゃんこれを」

 お母さんが布が被らされた細長い物を差し出す。私は丁寧に両手でお母さんからそれを受け取る。両手で受け取ったのはそうしないといけないと思ったからだ。それはずっしりと重く両手で持つのが精一杯だった。

「これは?」
「布を外してみなさい」

 私は頷いて片手では持つこともままならないから床の上に置いて布を解く。その布の下には黒塗りの鞘に収まった刀が姿を現した。

「それは帝国のある鍛冶師が打った作品で……」
「刀」
「なんで分かったんだい? そう刀だよ。昔僕が使ってた物だけどフェル君に譲るよ」

 まさかこの世界で刀が存在しているなんて……しかもそれをお父さんが昔愛剣にしてるなんて偶然なのかしら。日本を代表する武器。美しさと強さを兼ね備え、人を魅了する魅惑の武器。私は床に置いたまま鞘から刀を抜き出す。私も詳しくは知らないが姿を表した刀姿は反りが刀身中央より鋒側に最深部があることから先反り、そして乱れ刃の波打った美しい刃紋、長さから太刀に部類される刀だろうことが分かる。両手で柄を持って持ち上げようとするがあまりにも重くて少し浮かすだけで精一杯だった。

「ふぅ私にはまだ持ち上げれないみたい」
「焦らずじっくり鍛えればいいさ。フェル君が望むなら僕が稽古をつけてあげてもいいよ?」
「本当!?」
「おい! フェルやめと「なにか?」いえ何でもありません!」

 ダドリーさんがなにか言おうとしたがお父さんが有無を言わせない語調で遮られた。

「その刀を扱うことができるようになったら僕が教えてあげます。それまではしっかりダドリー君の下で頑張ってください」
「もちろん!」

 私は刀を胸に抱えて大きく頷いた。

「ダドリーさん。明日からよろしくお願いします」
「おう。それはもちろんいいが、ランも一緒だぞ?」
「わかってますよ。私は一度した約束を反故にしたりしません」
「反故って。その年でよくそんな言葉を知ってるな」
「さて私はそろそろ寝ます。お休みなさい」

 ダドリーさんからの突っ込みを意図的に無視して自分の部屋に戻る。私は部屋の扉をできる限り音がしないように開ける。中では私のベッドで折り重なるようにランとロロが寝ている。二人はとても安らかに寝息を立てている。ロロも元気を取り戻したようだし、大丈夫だろう。さて私はベッドの上のクッションと毛布を床に敷いてそこで横になる。お父さんから頂いた刀は壁にかけ、明日から始まる修行に思いを馳せて私は睡魔に身を委ねた。



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