それから私はロロとランに強引に一緒にお風呂に入らされたり、寝るまで絵本を読まされたりと一仕事した後、リビングでお父さんとお母さんと向かい合って座っていた。 「では聞かせてね」 「うーんどこから話せばいいだろうかアンナ?」 「話すなら全部話せばいいじゃないですか」 腕を組んでどうしたものかと考える父とあっけらかんと答える母。全く対応が違う二人さてまずはお母さんから聞いてみましょうか。 「それでお母さんって昔はなにしてたの?」 「お母さん? お母さんはねお城で魔道師をやってたのよ」 「城? 魔道師?」 「そ。結構偉かったのよこれでもね」 う〜ん確かにお母さんもお父さんも普通の人とは違うなとは思ったけどまさか宮仕えしていたとはね。 「ということはお父さんもお城に?」 「うん。僕は騎士長として国に仕えてたんだ」 「えーと確か私の記憶違いじゃなかったら騎士長って騎士の中で一番偉い人だったはずだけど間違いない?」 「さすがフェルだね。六歳とは思えないほど賢いね」 実は精神年齢十八歳と言ったら驚くだろうね。いやこの二人だったら気づいてる可能性もあるかも。 「それでなんで宮仕えしてたお父さんとお母さんがこんな田舎で燻ってるの? それにそんな二人がなんで一介の冒険者であるダドリーさん達と知り合いなの?」 「まぁまぁ順追って説明するよ。僕が騎士長だっていったのはその通りだけどその時ダドリーも僕の下に着いていた護衛騎士の一人なんだよ」 「ダドリーさんが元騎士……」 「そう。平民上がりで色々苦労してたみたいだけど強かったよ。同年の騎士の中では群を抜いてね。そんな彼が僕の下に着くことになったのも神様の粋な計らいだと感じたよ。それぐらい僕とダドリー君の出会えてよかったと思ってる。彼が僕の下にいた2年僕の持てる技能と戦いに必要なことを叩き込んだ。でもその後これは彼のプライバシーに関することだから詳しくは言えないけどとあることがあって騎士を辞め冒険者になったんだ。でも僕とダドリー君はそれからも連絡は続けててね。冒険者になったダドリー君に色々教えてくれたのがミェルちゃんだったらしい。でダドリー君繋がりで僕はミェルちゃんとも知り合いになれたんだ」 「なるほど。ダドリーさんとミェルさんの経緯は分かりました。ではシスティさんはお母さんの知り合いだったんですか?」 「そうよ〜システィちゃんは私に弟子入りさせてくれって訪ねてきたの」 「エルフ族であるシスティさんがお母さんに弟子入りってお母さんどれだけ凄いの?」 「ふふふ〜見直した? 見直しちゃった? フェルを驚かせられるなんてちょっと得しちゃったわ」 「いえ私を驚かしてもなんの得にもならないと思うけど……まぁお母さんがそれで喜んでくれるならそれでいいけど、それで弟子にしてあげたんだ」 「そうよ。私その時まで弟子なんて取ってこなかったけどあまりにも熱心に頼んでくるからその熱意に打たれて五年間みっちり教えてあげたわ。エルフ族であるシスティちゃんが五年も王都で生活すれば色々嫌な思いをしたはずなのにね。それにシスティちゃん王都に来るまでに路銀を全部使っちゃって。でねその時にアインツさんに相談してダドリーさん達を紹介してもらったの。でシスティちゃんは冒険者稼業でお金を稼いで私の元で修行していたのよ」 「なるほど。それであの繋がりがなさそうな3人が繋がるわけですね。うーんということは……大方見えましたよ。お父さんお母さんあの3人にトラウマになるくらい厳しい修行をつけたんじゃないですか?」 「どうなんだろうね?」 「どうなんでしょう?」 全く同じタイミングで首を傾げた二人。念入りに深く切り込んだ方が良さそうだ。 「ちなみにどんなことをしたんですか?」 「えーと僕はダドリー君とミェルちゃんと模擬戦をしたかな。3日連続とかで」 「えっ3日もちろん休憩入れてだよね?」 「もちろん朝、昼、晩の食事時間はあるよ、けどそれ以外はずっと僕と模擬戦だったね」 「睡眠はなしでですか?」 「なしで」 「ぶっ続けでですか?」 「ぶっ続けで」 「お父さんは辛くなかったのですか?」 「辛くはなかったかな」 うん。思わず敬語で聞いちゃったけど思った以上にこの父は人として超越したところにいるみたいだ。 「えっとじゃあお母さんはシスティさんにどんなことしてたですか?」 「えっ私? 私は確かシスティちゃんを結界を施した部屋に入れて破れるまで外に出さなかったりしたかな」 「それって監禁では?」 「違うよ。ちゃんとした修行! 結界のどこが弱くなってて破壊できるだけの魔法を紡ぐ観察眼と魔法技能を高める立派な修行だよ!」 「ちなみにどの程度の期間閉じ込めてたんですか?」 「確かシスティちゃんの記録は1カ月だったかな」 なるほど。1か月も部屋に閉じ込められてたならノイローゼにになってしまうでしょうね。この二人の修行を受けたならそりゃトラウマしか残らないでしょうね。よく五体満足で生きてましたねあの三人。 「なるほど分かりました。確かにあの三人の前で修行を蜂起させる話はタブーですね。私もそれは気をつけるとします。ところで一つ質問したいことが出来たので聞いてもいいですか?」 「なにかな?」 「どうしてお父さんとお母さんは今この片田舎で生活しているんですか?」 「そんなの決まってるじゃない。ねぇ?」 「そうだね」 「?」 私は頭上に疑問符を浮かべる。そんな様子に父と母はしょうがないなと言った様子で笑って口を開いた。 「フェルが生まれたからに決まってるじゃない」 「……私が生まれたから?」 「そうだよ。僕たちの立場は結構上の方にあったからね。あのままだともし君が生まれても一緒にいてあげる時間がなかったと思うんだ。それでアンナと相談してそれならいっそ仕事を辞めて田舎に行こうってことになったんだよ。幸いこの街の領主と僕は仲が良くてね今は彼の元で働かせてもらってるんだよ」 「二人は後悔してないの? 偉い人だったんでしょう? その地位を捨ててこんな田舎で生活して昔に戻りたいって思ったことないの?」 「フェル……」 二人はとても悲しそうな顔をした後とってもいい笑顔を私に向けてくれた。 「そんなわけないじゃないか。僕は今の生活がとても気に入ってるんだよ。フェルが生まれて六年僕は一度も悔いたことはないよ」 「私もよ。フェル。今とっても楽しいじゃない。フェルにもランちゃんとロロちゃんっていう掛け替えのない友達も出来たし、システィちゃんにダドリー君、ミェルちゃん。ダリさんにリサーナさん。みんなで集まってわいわい一緒に食事するなんて向こうでは考えもしなかったもの。だからこっちに来てよかったと思ってるわ。なによりフェルの元気な姿を見るのが私とアレンツさんにとって一番嬉しいことですもの」 二人の笑顔と言葉に私の目頭がどんどん熱くなっていくのが分かる。二人はこんなにも私の事を考えてくれている。それなのに私は二人を本当に心の底から信用できずにいる。また拒絶されるのが怖くて。また独りになるのが嫌で。でもそれを少しでも変えるためにお父さんとお母さんの思いを真剣に受け止めるために私は変わりたい。 「あらあら泣く必要はないのよフェル。こういうときはにこっと笑顔を見せてね」 「ううん…………私お母さん達に黙ってたことがあるの……あのね……」 それから私は自分が尽くせる言葉全てを使って二人に説明した。二人は真剣に私の言葉を聞いてくれ。途中で遮ったりはしなかった。そして、 「なるほど。フェルが賢いのは前世の記憶を引き継いでるからなのか」 「いえ、それもありますけどこの世界に生まれて動けるようになってお父さんの書斎で本をたくさん読みましたから」 「ねぇフェルの前世の世界の話聞かせてくれる?」 お母さんが興味津津の瞳で私を見つめてくる。いつもの反応に私は逆に戸惑ってしまう。 「信じてくれるの? 不気味に思ったりしないの? ここにいる私はフェルを犠牲にして生まれてしまったのかもしれないんですよ!?」 「あのねフェル。人はなにを持って家族となると思う?」 「……私には難しいです」 「その人たちと過ごした時間とその人たちがこれが家族って認め合えた時、家族は出来ると思うのよ。だからね私はロロちゃんのことを一人の娘だと思ってるの。そんなロロちゃんよりも長い時間を過ごしたフェルのことを家族と思わないわけないじゃない」 「そうだよ。だからそんな他人行儀な態度を取らないで。もっと僕たちに甘えてくれ」 もうダメだった。溢れてくるものを抑えることができず私はお母さんに抱きついて大声を出して泣いた。こんなに泣いたのは前世もフェルとなってからも初めてだった。そんな私を二人が挟んで抱いてくれたことが二人の優しさを表しているようだった。 だけどごめんなさい。私は申し訳なさを味わいながらもそれでも力のことは話せなかった。
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