パン屋の営業が終わったのは日が完全に落ちてしばらく経ってからだった。 「フェルちゃんいつもありがとね。これ御礼。お夕飯の足しにして」 シチューを入れた鍋を渡してくれる。手伝いをした時の定番の御礼だ。味はもちろん美味しい。お母さんと甲乙つけがたい。 「ありがとう。それじゃまた明日ね。ラン」 「うん〜またねフェルちゃん」 パン屋を後にして私は愛しの我が家へと足を向ける。 私の家はランの家から歩いて5分の所にある。木造の二階立ての一軒家。入ると木の良い匂いが鼻孔を刺激して安らぎをくれる。元日本人としては嬉しい事だ。 「ただいま。お父さん。お母さん」 リビングでくつろいでいた私のこちらでの父、アレンツと母に帰宅の挨拶をする。父はプラチナブロンドの髪を男性にしては長めに伸ばし、透き通った金の瞳を向けられるとちょっとドキっとしてしまう。母、アンナはこの世界では珍しい黒髪を後ろでポニーテールにしている。家事全てを 「おかえり。フェル」 「おかえりなさい。フェルちゃん」 食卓にはすでにいくつもの料理が並んでいる。 「これリサーナ母さんからだよ。後こっちは私から」 シチューをお母さんに手渡し、魚は貯蔵用の棚に置く。 「今日も頑張ってきたのね。偉いわよ」 頭を撫でられる。ここでは見られる心配がないから思いっきり頬を緩めて感受する。 「さぁさぁ疲れただろう。早く座ってアンナさんの料理を味わおう」 「お父さんが待ちきれないだけでしょう?」 「うん。そうだよ」 私の皮肉に素で返すお父さん。うーん適わないな。この夫婦、子供である私から見てもラブラブ(死語寸前?)である。 家族全員食卓に付き、夕食を頂きながら今日合った事を話すながら穏やかな時間を過ごしたのだった。
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