〜冒険者編〜第10話

「さぁ二人とも準備は出来た?」

翌朝私は昨日の酒場で朝食を取りつつ、二人に確認した。

「うん!」
「私も……大丈夫」

ランは腰に佩いた剣を叩いて、ロロは軽く頷いて応えてくれた。
この場にいるのは私たちだけだ。大人組み三人はすでにギルドに向かった。何でも豊穣の森について情報を集めるらしい。豊穣の森のあの霧には何か原因があると睨んでいるとダドリーさんが言っていた。
情報が集まったら私たちの力も借りることになるかもしれないといっていた。

「それじゃ行きましょうか」
「うん行こう!」
「あんた達待った待った」

女将さんがバスケットを持って私たちの元にやってきた。

「ほら。今日のお昼だ。持っていきな」
「ありがとうございます。ありがたく頂きますね」
「ありがとう! 女将さん」
「……ありがとう」

女将さんからバスケットを受け取り、ランが率先して先頭を歩くが朝のウラーナはひっきりなしに馬車が通り、その隙間を縫うように人々が歩いており私たちはその人波に揉まれながらどうにかギルドに辿り着くことが出来た。

「ふい〜着いた〜」
「まさかギルドに来るまでにこんな疲れるなんて思ってもいなかったわ」
「……はふ〜」

着いた早々ギルドの壁に背を預けて荒れた呼吸を整える。体験したことは無いけれどこれは前世のラッシュ時の混雑に負けないだろう人口密度だった。
そこで粗方息を整えた私たちはさっそく依頼掲示板の前に行く。
もちろん見に行くのはFランクの依頼だ。

「なにがあるかなー? あっこれ行こうよ! コブリン討伐だって」
「あんた昨日の話全く聞いてなかったわね。討伐依頼はしないって言ったでしょ。今日は採取依頼を受けるわよ。これなんかね」

私は依頼の一つを差して言った。

『常時募集薬草収集! アスリアの森で薬草の収集をお願いします。詳しくはカウンターまで』

「ええ〜地味だよ〜」
「昨日ちゃんといったでしょう ロロはなにかある?」
「ううん……昨日フェルが言ってた通りだと思うから」
「よし決まり!」

番号を確認してから昨日のお姉さんがいるカウンターに向かう。

「おはようございますお姉さん」
「あら早いのね」
「そうですか?」
「ええ。一番早い冒険者の方でももうちょっと遅くやってくるから」

どうやら冒険者の平均活動開始時間は随分とルーズみたいだ。

「二番の薬草収集の依頼を受けたいのですが、説明お願いできますか?」
「もちろん。それじゃちょっと待っててね」

お姉さんが奥に行き、すぐに三つの袋をカウンターに置いた。

「はいお待たせ〜。この袋いっぱいに薬草を摘んでくるのが今回のお仕事よ。これが集めて来てもらう薬草ね」

次に葉の棘が特徴的な植物が植えられた植木鉢を置いた。

「この葉っぱの棘が特徴だからね。薬草に似た毒草があるのだけれどそっちはこの棘がないからすぐ分かると思うわ」
「その毒草は危険なものなんでしょうか?」
「口に入れなければ大丈夫です。もし誤って入れたとしても少し体が痺れる程度の弱い毒なので安心してください」
「なるほど。それでアスリアの森とはどこにあるのでしょうか?」
「アスリアの森は豊穣の森より小さいですが多種多様な動植物が生息している森です。場所は南門を出てそのまま街道に沿って歩くと立て看板が立ててあるのですぐに分かると思います。魔物も数は少ないですがいるので気を抜かないでくださいね」
「分かってます。みんな行くよ」
「は〜い」
「くれぐれも気をつけるのよ〜」

お姉さんに手を振られながら見送られた私たちはそれぞれ一つずつ思い思いの場所に袋を括り付けて意気揚々とアスリアの森を目指す。

南門から街を出た私たちは言われたとおりの道順を辿り、終始和やかにピクニック気分でアスリアの森に辿り着くことが出来た。南門から出るまでに人の波に再び晒され、潰されかけたというのは割愛させてもらう。

「さくっと終わらせよう!」
「そうね。早く終わらせて次の依頼を探しましょう」
「えー! 次もお仕事するの〜」
「そうよ。さ、頑張りましょうか」
「は〜い……」
「……ラン落ち込まないで」
「ロロお願いするわ」
「……うん。ちょっと待ってて」

ロロは一つ頷いて傍の木にそっと手を触れる。
エルフであるロロは森の精霊や木々とある程度の意思疎通をすることが出来る。豊穣の森では森自体の異常で出来なかったが、この森では問題なく出来るはずだ。

「……分かったよ。奥の泉に群生してるみたい」
「ありがとう。じゃあ道案内お願いね」
「……うん。こっち」

いつになく誇らしげに前を歩くロロ。私は昔のロロと比べて思わず口の端が緩んでしまった。



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