〜冒険者編〜第3話

気持ちよく晴れた朝、絶好の旅立ち日和だ。私たちは街の入口に集まって見送りに来てくれた人たちに挨拶を返しているところだ。

「アーシェさんわざわざ見送りに来ていただいてありがとうございます」
「いいのよ。うちの店の看板娘の門出なんだから見送りに来ないわけには行かないわ」
「そうだよ。ああこれお弁当お昼にでも食べてね」

 今日はノールさんも一緒だ。背中にはルーシェちゃんもいる。

「ありがとうございます。大事に食べさせてもらいますね。しばらくは食べられなくなってしまいますから」
「そんな大げさだよ。でも味わって食べては欲しいかな」
「はい。ではお二人ともお元気でルーシェちゃんもバイバイ」

 二人にお礼を言ってから馬車の元に戻る。荷物の積み込みはすでにダドリーさん達がやってくれており、あとは乗り込めばすぐにでも出発できる。

「お父さん、お母さん行ってきます」

 ただその一言に様々な気持ちを内包して言ったのがきちんと伝わったのかお父さんもお母さんも一つ小さく頷いていってらっしゃいと返してくれた。
 ダリ父さんとリサーナ母さんは交互にランを抱きしめたり、頭を撫でたりと名残惜しそうにしていた。

「そろそろ出発するから二人共それくらいにね。ランも眼を白黒させてるよ」
「ああすまない。フェル……ランのことくれぐれもよろしく頼む」
「フェルちゃんも無事に帰ってきてね」
「大丈夫。私もランも無事に帰ってくる。帰ってくるときは一回りも二回りも成長して帰ってくるから楽しみにしてて。ね、ラン」
「うん! それじゃいってきます!」
「いってきます」
「「いってらっしゃい」」

 馬車に乗り込んで御者台に座るダドリーさんに告げる。

「お待たせしました。出してください」
「もう十分なのか?」
「ええ。どこかで踏ん切りをつけないといつまでも出発できなさそうですので」
「分かった。それじゃ出発だ」

 ゆっくりと馬車が動き出す。ランとロロが馬車から身を乗り出して手を振っている。

「「いってきま〜す!」」

 皆の姿が見えなくなるまでずっと振り続けるランとロロだった。


 馬車に揺られて既に三時間程度、私の対面に座っているランにある異変が生じていた。

「う〜……退屈!」
「言うと思ってたけど随分我慢できたじゃない。でも大人しくしてなさい」
「でも暇なんだよ〜む〜」
「全く……そうね……一応用意しておいたはず……」
鞄の中を掻き分けて目的の物を見つけ出す。

「ならこれでもしましょうか」

そういって私は紐で纏められた五十四枚の札を置いた。このカードは木の板に数字とマークを彫った後、形を整えるために力を使って作った私のオリジナルだ。
「これはなんなの?」
「これはトランプっていう遊ぶためのカードよ。この五十四枚で色んなゲームが出来るわよ。でも風で簡単に飛んじゃうから気をつけないといけないけど」
「それでそれでどういう遊びがあるの!?」

思ったよりも食いつきのいいランにちょっと驚きつつも私は頭の中でどのゲームがいいか考える。分かりやすく、長く楽しめるゲームというとやっぱりここは……。

「ならババ抜きでもしましょうか。ルールはまず最初はこのカードに書いてある数字が2枚揃ってたら場に出して、揃ってるカードがなくなったら順番を決めて相手のカードを引いていくの。そして引いたカードが手元にあるカードと同じ数字だったらまた場に出す。これを繰り返して最後に手札をなくした人の勝ちね。大体わかったかしら」
「うん! やりながら覚えるね!」

全然分かっていなかった……でもまぁ確かにランならやりながらのほうが覚えるのは確かね。

「それじゃやりましょうか」


まぁ結果だけいうのなら楽勝でした。私もルールは知っていたがやるのは初めてだったがラン、ロロ、ミェルさんの三人が全くポーカーフェイスができていない。ランは仕方ない。やる前からわかりきってはいたが、最近は明るくなったとはいえ普段あまり表情を表に出さないロロと自分の気配すらも殺せるスカウト技能を持つミェルさんがここまで弱いとは思わなかった。

「また負けた!」

まぁその中でもダントツで最下位を突っ走ってるのはランだけども。その手の中にある札は全然減っておらず、どうやったらそれだけ残せるのか逆に不思議に思うくらいだ。

「もう一回! もう一回!」

負けるたびにそういい繰り返してもう十回目。さすがに飽きてくる。

「ねえラン。そろそろ別のゲームにしない?」
「別のゲーム! なになに今度はどんなの!」
「そうね。ポーカーなんてどうかな?」
「ぽーかーってどんなの?」
「ポーカーはね」

一つ一つの役を教えてあげるがババ抜きよりも複雑なためランだけでなくロロも疑問符を浮かべていた。 「うーんこの二人には無理そうじゃない?」 「かもしれませんね」 システィさんにも言われ、頭の中でトランプのゲームを考える。シンプルで皆で遊べるもの。

「なら神経衰弱ならどう?」

やって見せながら教えてみると「これならできる!」と言って自分で札を伏せていく。

「じゃあランからどうぞ」

結果から言ってシスティさんが強すぎた。全ての札の配置を覚えてるのか一度でもめくられたことのある札が出ると的確に当ててくるのだ。

「システィ大人気ないわよ……」
「ごめんなさい。こういう頭を使うの大好きだからついね」

ミェルさんに言われたシスティさんは頭を掻きながらランとロロに謝っていた。

トランプで旅の暇を潰して過ごし、旅程も半分が過ぎた頃問題の豊穣の森の入口まで辿りついた。



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