〜冒険者編〜第6話

森を抜けるとそこは草原が広がっており、霧も森を抜けると同時に晴れていた。太陽はまだ落ちておらず頂点を少し過ぎたくらいだった。

「この森の中だけに霧が立ち込めてるみたいだな」

森を振り返って一つダドリーさんが呟いた。

「ウラーナならなにか分かるかもしれないわね」
「そうね。ギルドがもう動いてるといいかも」

システィさんとミェルさんは草原の向こうにうっすらと見えるウラーナの外壁を眺めながら呟いている。

「あれがウラーナか〜楽しみだな〜」

目の上に手でひさしを作り、眺めていたランが間延びした声を上げる。その表情は大変楽しそうである。その逆に。

「うう……人が多いんだよね……怖いよ……」

今だ人見知りの激しいロロ。私たち以外と話すときは目すら合わせられないし、噛み噛みになるダメッぷりだ。

「まぁただでさえエルフ族は注目を集めるだろうしね。あまり私たちから離れないように注意してね」
「……うんそうするよ」

フードを引っ張って顔を隠そうとするロロだった。

「ダドリーさんこの距離ならば夜までにはウラーナに辿り着けるんじゃないでしょうか?」
「そうだな〜。俺も野宿とは一日でも早くおさらばしたいものだし、こいつに少し無理をさせるが急ぐとするか」

馬の背中をぽんぽんと優しく叩きながら歩を進ませるダドリーさん。
私は馬車を降りて歩いている。森の中では御者や荷台に乗って歩いてなかったから軽い運動の代わりだ。

「あっみんなあっち見てみなよ」

ミェルさんが指差した方向を見てみると、遠目で小さい影が動いているのが分かった。目を凝らしてよく見てみるとそれが魔物と戦闘している冒険者だということが分かった。

「どうやらお前たちの少し先輩みたいだな」
「そうなんですか?」
「ああたぶんな。装備が駆け出しがよく使う片手剣に皮の防具だ。外に狩りに来てるってことは冒険者を始めて一年ってぐらいだな」
「一年って冒険者って魔物を倒すのが仕事じゃないの?」
「それも仕事の一つだ。だが冒険者ってのはようするに何でも屋だ。簡単なものなら物を運んだり、家の修理をしたり、薬草を集めたりな」
「難しいのならそれこそさっきランが言ったように魔物の討伐が代表的ね。ドラゴンの討伐なんてたまに入ってくるわよ」
「ドラゴン! 見てみたい!」
「見るだけでいいの? 倒してみたいとか思わない?」
「え? う〜ん倒したいとかはないかな。そのドラゴンが困らせることをやってたら倒さないとって思うけど」
「ランはお金や名声ではなく冒険がしたいから冒険者になるんだものね」
「うん! そのためにはどこに行っても大丈夫なようにもっと強くならなきゃ!」

意気込み新たに答えるランの純真無垢な心に私の心も洗われるようだ。

「その粋だラン。頑張れよ!」
「はい!」

ダドリーさんとランがなにか言外で通じ合っている。
遠くから頑張っている先輩冒険者さんを応援しつつ、私たちはウラーナの街に無事に辿り着くことが出来た。

「止まれ!」

ウラーナの門兵に止まるように指示される。そしてそのまま近づいてきて、何度も繰り返してきたのだろう事務的に身分証の提示を求められる。
それに従い、大人組みは自分たちの冒険者カードを見せる。

「後ろの子供たちはなんだ?」
「俺たちの弟子だよ。ここで冒険者登録を行おうと思ってな」
「そうか……だが今は身分証を持っていないのだな。ならば三人分で銅貨三枚の入街税を払ってもらうぞ」
「ああほらよ」

皮袋から三枚の銅貨を渡すダドリーさん。それを確認した門兵の人も一つ頷いて門の隣に併設されている待機所だろう、そこに戻っていった。

「よーしお前らここがウラーナだ。お前たちの冒険者としての日々が始まる街だ。心に刻めよ」

門を通る馬車。抜けた先は私たちの街の二倍は広かろう大通りとその両側に立ち並ぶ店や露天、そしてそこを行きかう人の多さだった。

「よし俺たちはこのまま宿を見つけてくるからお前たちはこのままギルドに行って登録を済ましちまえ」
「私たちだけで行くんですか?」
「おう。別に俺たちがいなくても大丈夫だろ?」

人の悪い顔で笑いかけてくるダドリーさん。ちょっとした意地悪プラスけじめみたいなものだろう。冒険者としての一歩自分たちで踏み出せということか。

「分かりました。二人とも降りるよ」

真っ先に荷台から飛び降りる。それに続いて二人も降りてきた。

「この通りを真っ直ぐに進めばギルドがある。俺たちも宿を確保したら向かうから俺たちが行く前に登録が終わったら、そのまま待っていてくれ」
「分かりました」
「それじゃまた後でな」

システィさんとミェルさんが手を振っていたので振り返してからギルドへと歩を進める。 ランは私の横を、ロロはしっかりと私の服の裾を持って背中にくっついていた。

「いよいよ冒険者デビューだよ!」
「ラン嬉しいのは分かるけど落ち着きなさい」
「……ふふランはどこにいてもランだね」
「僕は僕だもんね。この街も隅から隅まで探検したな〜」
「どれだけ広いか分かっていってるの?」

私は呆れて呟いた。この街ウラーナは五つに分割される。今私たちがいる北区は商業区になっていて様々なお店や、商館が軒を連ねている。この北区だけでも私たちの街の半分はあるとダドリーさん達から聞かされていた。

「だから私から離れちゃダメだからね」
「じゃあ僕もフェルちゃんに捕まっとこ」

そういってランがなんとはなしに私の手を握った。

「なっ!?」
「これで逸れる事はないよね」

最高の笑顔と手から伝わる温もりに私の鼓動は私の意思を無視して最高速度でビートを刻み始める。

「んなっななにしてんのよ!」
「ん? 手を繋いだだけだよ。嫌だった?」
「ううん……そんなことはないけど……いきなりはちょっと……」

顔に血が集まってまともな思考が出来ない。

「……照れて顔真っ赤……可愛い」

ロロが笑い混じりに後ろで囁いた。

「仕方ないでしょ! ランったら無自覚なんだから!」

小声で言い返すもロロはニコニコと笑ったままだ。

「私をからかって面白い?」」
「……フェルがそんな風に感情を見せるのは珍しいからつい……」
「まったくもうっ」

いつもいつもこの幼馴染は普段は物静かに佇んでいるのにこういうときだけは嬉々として弄ってくるんだから。ロロもロロだけどランもランだ。こういうことをするならもうちょっと照れたりとか雰囲気とかそういうのを考えてくれてもいいのに……まぁでもしてくれるのは嬉しいから吝かではないけれども……。

「ねえフェルちゃんギルドってここじゃないの?」
「えっ?」

おっと意識がどっか行ってる内にギルドに着いていたみたいだ。入り口にかかっている剣と杖の紋章がギルドを示していた。



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