〜冒険者編〜第7話

「危ない危ない行き過ぎるところだった。それじゃ二人とも行くよ」

大きく創られた入り口をくぐり、中に入る。正面には銀行の窓口のようなカウンター、右手には依頼が張り出されてるのだろうか人が群がって一心に何かを見ている姿、その反対には酒場が併設されていて、早くもお酒をかっくらっている冒険者の姿が見える。
ギルドに入った私たちにその場にいた全員の視線が集まる。
その目はガキがギルドに何のようだと雄弁に物語っていた。
その視線に全く気付かないランが小走りに受付にいるお姉さんに声をかける。

「お姉さん冒険者になりたいんだけどどうしたらいい!?」
「えっ!?」

その勢いに思わずといった感じでお姉さんは仰け反って驚いていた。
それでも自分の職務を思い出したのかすぐに気を取り直してランに聞いた。

「えっと、冒険者になるためには十歳以上じゃないとダメなんだけど君は今何歳かな?」
「私たち全員十歳以上なので冒険者登録できますよ」
「えっ?」

ランの影から話しかけたためかお姉さんは私の存在に気付いていなかったのか戸惑いの声を上げていた。

「あっごめんなさい気付かなかったわ」
「いえお気になさらず。それで冒険者登録なんですけど私たち三人でお願いしたいのです」
「冒険者がどんな仕事をするのか分かってるのかな?」

口調が子供を宥める時の様な優しい声音になる。

「お使いや薬草集め、簡単な雑用から商人さんの護衛や魔物退治、魔物襲撃からの街の防衛などの危険が付きまとう仕事もあることは知っていますよ」
「そこまで分かってて冒険者になるってことは何か理由があるのかな?」
「えっ理由ですか……理由……強いて言うならこの子の夢のためでしょうか」

そう言いつつランを指差す。

「僕ね世界を見て回って冒険したいんだ。だからもっと強くなりたいしお金も必要なんだ。冒険者ならそれが出来ると思うんだよ」
「まぁ確かにギルドは各国にあるから君の目的には当てはまるかもしれないけど……うん。十分に冒険者としての知識と意欲があることは分かったわ。それじゃこっちの書類にそれぞれの名前と年齢と性別と魔法が使えるかどうかを書いてください。あっ文字は書ける?」

お姉さんが羊皮紙と羽ペンを差し出してくる。
「うん!」

我先にと羽ペンを手にしたランはさらさらと書き始める。

「あっ後ろの子一応ローブを脱いでもらってもいいかな。一応顔を確認させてもらわないといけないの」
「えっ……はい……」

気は進まないだろうがロロがローブをゆっくりと取る。その下からロロの特徴的な長い尖った耳が現れると興味を失っていた大人たちの目が再びこちらに集中したのが分かった。

「あらエルフ族の子が王国にいるなんて珍しいわね」

てっきりもっと驚かれると思ったがお姉さんの反応は極めて普通で肩透かしを食らった。

「お姉さん驚かないんですね?」
「ああ私ここに来る前はソシア群国にいたの。あっちの国にはたまにだけどエルフの冒険者の人もいたから見慣れてるのよ」

なるほど。確かに群国にいたのならエルフ族を見慣れてるのも頷ける。

「……っっ」

おっとロロが恥ずかしくなりすぎてしきりに服を引っ張っていた。

「この子人見知りで、もうフード被っても大丈夫ですか?」
「ええ。顔の確認もできたし大丈夫よ」

お姉さんの答えを聞いたロロはすぐさま被りぎゅっと押さえつけた。

「さぁロロさっさと書いてしまいしょう」
「……うん」

さらさらとさっき言われた項目を書いてお姉さんに提出する。

「どうぞ」
「はい預かるわね。あら三人共魔法が使えるなんて凄いわね」
「冒険者って魔法が使えるものじゃないの〜?」
「使える人ももちろんいるけど全体的に言ったら四割くらいかしら。だから魔法を使える人は重宝されるの。だからあなたたちももしかしたらパーティに誘われるかもよ。それじゃちょっと待っててね」

ランの質問に答えたお姉さんはそのまま奥に書類を持って消える。

「僕たちこれで晴れて冒険者なのかな?」
「まだじゃない? 冒険者カードも貰ってないしね」
「……うういよいよなんだね」
「ようお前ら随分と緊張してんな」

後ろから随分と軽いお調子で声をかけられる。
振り返るとそこには岩があった。いやギルドにドンといきなり本物の岩が出現したわけではなく、私たちの後ろに岩のように大きくおそらく身長は二メートル近くあるだろう。身長だけでなく腕や胸の筋肉は盛り上がり、とにかくゴツゴツした人物が立っていた。

「うわ〜大きいね〜」
「失礼ですがどなたでしょうか?」

不用意に近づこうとするランを押し留め、警戒しつつ返事する。

「おう。自己紹介はしないとな。俺はガラン。まぁ言うまでもないだろうが冒険者をしている。お前ら三人とも魔法が使えるんだろう? どうだ俺たちのパーティに入らないか?」

ガランさんが親指で後ろを指すとパーティメンバーであろう三人が手を上げる。まさかさっそく誘われるとは思わなかった。だけど返事は決まっている。

「せっかくのお誘いですが申し訳ありません。私たちはどこのパーティにも参加することはありません。お引取りを願います」

殊更丁寧になるように意識して言葉を選び返事を返した。
だがこっちが子供だからだろう。ガランさんは引く様子はなく、私の腕を掴んで更に言葉を重ねてきた。

「まぁまぁそんなツンケンするなよ。とりあえず向こうで話さないか?」
「何度誘われても答えは変わりません。迷惑ですのでお引取りをお願いします」

もう一度お断りをはっきりと告げるが腕を放してくれる様子がない。逆に力を強くしてぐいぐいと引っ張ってくる。どうやら無理矢理にでもパーティに引きずりこみたいらしい。だが腕力に物をいわせるだけならいくらでも対処はできる。
腰を落とし重心を下げ体を固定し、伸ばしっぱなしにしている腕を曲げ、力に対抗しやすくする。
これだけで私はその場から一歩も動かず、またたいした力を労さずにガランの力に対抗することが出来るようになる。
互いの体を使った綱引きを膠着状態に持っていく。いくら力を入れてもびくともしない私をどうにかして動かそうと顔を真っ赤にしているガランさんにうんざりした口調で話しかける。

「いい加減に放してもらえませんかね?」
「ぐっなぜ動かん! こんな小さな餓鬼一人なぜ動かせない!」
「何をされてるんです?」

そこで受付のお姉さんがカウンターに戻ってきた。

「ちっ!」

ガランさんは悔しげに舌打ちをしたあと、後ろの仲間とともにギルドを出て行った。



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